冒頭の3分がつまらなそうな映画は途中で見るのを辞めてしまう。筆者はそんな小さな人間だ。
画の質感が次々と変化し、直感的に面白そうだと思ったものはたいてい最後まで観る。
例えば、庵野作品でいうとシン・ゴジラのように、出だし数分の情報量が多いと大衆映画として興味深さが増してくるのだ。
この映画は、冒頭から引き込まれる。全く意味はわからないまま、とにかく引き込まれるのだ。
大筋としては、呪われた剣である天叢雲剣により盲目となり、琵琶法師として生きる術を身につけた友魚と、生まれながらにして異形の物、犬王の話。
歴史や時代劇が好きな人はその完成度にニヤニヤしながら観てしまうだろう。
レビュー ※ネタバレ有り
まずカメラの視点がそれぞれの視線になっているところが特徴的。
盲目、異形と役者によってそれぞれ視点が異なるところに注目したい。
上記は単純な手法かもしれないが、カメラが切り替わると作品への没入感は高まる。近年慣れ親しんだVR的なテクニックだ。
はじめて友魚と犬王のセッションは宇宙的で非常にファンタジックである。音楽のジャムセッションをしたことがある人ならわかると思うが、実際に他人と一緒に音楽を演っていて、調和した時はこんな感じの脳内イメージがしばしば浮かぶ。
犬王のマイケル・ジャクソンのような斬新な舞踏、友魚のジミ・ヘンドリックスのような自由な琵琶。
まるで初期ロックスターのLIVEの如く狂乱する人々。すべてがフェス的だ。
後半、グラムロックやハードロックを思わせる衣装やメイクになるシーンはいわゆる「傾奇者」のようである。
音楽のクオリティがとにかく高いので、音好きは確実にハマる。
和楽器も生録音されていて、琵琶の鳴りがしっかり聴こえてくる。
和のようでエレキギターがガシガシに入っていて洋楽、だが洋楽すぎない、といった曲は、単調さがなく素直に楽しめた。
激しい局面はハードロック的だが、全体的に東西音楽のフュージョンがうまくできている。
琵琶法師というものがそもそも弾き語りスタイルであるから、物語を歌うのだが、中盤でミュージカル映画のように歌いまくる。ひたすら音楽PV的な映像が続くシーンにおなかいっぱいになりそうだ。だが、再生停止ギリギリのラインでストーリーに戻ってくる。
歌のシーンではどこかで聴いたことがある声だと思っていたら、エンディングで女王蜂のボーカルの人だった事が判明し、超絶スッキリ。
音楽が好きな監督じゃないとここまで濃厚な作品は生まれない。間違いなく音楽マニアだ。音楽に映像をつけているのだろう。
最後の曲は犬王のコンテンポラリーダンスのような舞も手伝って、かなり変態的な仕上がりだ。これだけでも観る意味がある。
この作品が好きなら、アニメ「平家物語」もすんなり入れるはず。こちらもAmazonで閲覧できるのでご覧あれ。劇場アニメーション『犬王』
レビュー点
※満点 5点
総合 3.5点